アルフォンシーナと海

1938年10月22日、土曜日。

46歳の女流詩人、アルフォンシーナ・ストルニはブエノスアイレスの駅から列車に乗り込んだ。マル・デル・プラタに着いたアルフォンシーナは郵便局へ向かい、新聞社の La Nación に詩を送っている。

10月24日、月曜日。
ろうそくの光の中、反抗の叫びと服従への呼びかけに彼女は道徳的混乱に陥ってしまう。
結論は出ているというのに・・・。
独り言がとまらなくなり、一人息子のアレハンドロに手紙をしたためると、夜中の一時ごろ海へ向かった。彼女の伝記作者は埠頭から飛び降りたのだと確信しているものの、彼女の詩を知る沢山の人たちはゆっくりと沖に向かって歩いていったと信じている。(伝説のほうが真実よりも正しい場合だってある。)数時間後、近くを通りがかった2人の若者が波打ち際で息絶えていたアルフォンシーナを見つけることになる。
「ばあや、もう眠るから・・・。灯りをもう少し落として。一人にさせて。」というフレーズを含んだ別れの詩とともに夕刊で偉大な詩人の死は伝えられた。

アルフォンシーナ・ストルニは1969年にアリエル・ラミレスとフェリックス・ルナによって書かれた「アルフォンシーナと海」という曲によってその名を不滅のものとしている。詩と音楽が不思議なエネルギーで一緒になり、中南米全土の人々の琴線にふれた奇跡のような1曲。彼女が命を絶ったマル・デル・プラタという避暑地として有名な海岸からは、ピアソラが生まれ長いこと暮らしていた。

以下、拙訳。

海がやわらかい砂を舐めていくものだから
彼女の小さな足跡はもう戻ってこない。
無情と静寂しかない小道は、水の深いところに達した。
声を失った無情しかない小道は、泡と帰した。
君が苦しみに付きまとわれ
古い傷が君の声を奪っていたことを
神様はわかっている。
安らかに眠るために、海底の貝の歌に耳を傾ける。
暗い海底の貝が歌う歌。
アルフォンシーナ、君の孤独を抱きかかえて行ってまったんだね。
どんな新しい詩を探しにいったんだい?
風と塩のいにしえのささやきが
君の魂を口説いて連れて行ってしまった。
そして君は夢見るように、眠るように、あっちに向かって行ってしまった。
海というドレスをまとったアルフォンシーナ。
海藻と珊瑚の道を通って、5人の人魚が君を運んでいく。
蛍光タツノオトシゴが君の周りに輪を作り
水の住人たちも君のそばで遊び始めるに違いない。

  ばあや、灯りをもう少し落として
  私をゆっくり眠らせて
  そしてもし彼が電話してきたらここにはいないと伝えて
  アルフォンシーナはもう戻ってこないと伝えて。
  そしてもし彼が電話してきたらここにはいないと必ず伝えて
  私は行ってしまったと伝えて。

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